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ドケットストアとは「小さな実験」の積み重ねである【カタリベがいるお店】

品揃えに一切の妥協をせず、全国各地の産地に通い、作り方や作り手の思いを代弁してくれるお店があります。

そこで働く店主や、どうしてもこれが好きでたまらないと情熱をかけるスタッフの方々を「カタリベ」と呼ばせてもらっています。

そんなカタリベがいる店に、なぜそのお店をやろうとおもったのか、お客様とのエピソード、どうやって商品を探しているのか、これから考えていること。など色々なお話をインタビューでお話を伺いながらお店の魅力を聞いていきたいと思います。

第一回目は「ドケットストア」店主山下さん

お名前:山下 義弘
ドケットストア店主。無印良品を運営する良品計画で、店長などをつとめ独立。文具と収納用品をテーマにしたお店を大阪府箕面市で運営。メディアプラットフォームnoteでの商品説明が話題となり、中川政七商店主催の大日本市では「プロのカタリベ」に選ばれるなど活動の幅を広げている

ドケットストア山下さん

ドケットストアの成り立ち

ー 今年でドケットストアさん運営しだして何年目になりますか?

5年目になります。実店舗をオープンしてから4年半、ネットストアを本格的に始めてからは、3年ぐらいになります。

ー 意外です。ネットがあとなんですね。もともとネット中心にしようという気持ちはあったんですか?

もちろんネットストアをやらなければならないことは、開店当初の時点でわかってはいました。
BASEさんを利用して、ネットストアのページそのものは作ってはいたんですけど、作っただけじゃもちろん誰も見に来ない。
その点、隣にカフェがある実店舗はまだお客様が覗いてくださるので、ネットストアよりも楽しくて結果もすぐ出る。
なので、最初のうちはなかなか結果が見えにくいネットストアがおろそかになっていました。

ー 前職の無印良品さんにいるときから思っていた構想ですか?

そうですね。
大学生の頃から文具が好きで、「一度はお店をやってみたい」とは考えていました。福岡にいたころに、個人でやってらっしゃる素敵なお店がたくさんあったので、あんな風に働いてみたいと思っていました。

ー 特に影響されたお店はどこですか?

PLASESTORE(プレイズストア)さんとアイデアスイッチさんですね。
話を伺ったときに「やれますよー」って言われてそうなんだと真に受けて。そこでやってみようと思ったわけです。

その頃はまだ会社でも働いていました。
無印良品から転職をした会社で副業のOKが出たので、まずは副業として始めたのがドケットストアです。

でもその会社の体制も変わってしまって、会社を辞めるかお店を辞めるか。
どちらかを選ばないといけなくなり、思い切って独立することにしました。

とはいえ、会社のお給料がいただけなくなる以上、しっかりとお店の売上で食べていかないといけない。
ちょうどその頃、自分のお店用に三角コーンで作った看板が口コミで売れはじめていたので、これを頑張って売ったら商売になるのでは?と思って力を入れて売り始めました。
もちろん甘い考えだったことを思い知ったんですけれど(笑)

三角コーン

三角コーンだけを武器に、声をかけていただいてイベントに出店したんですけど見事に1つも売れないなんてこともありました。
もちろんこのままでは店としてやっていけません。
色々な人にどうしたらいいのか相談したり、話を聞きに行ったりしていたのもこの頃だったと思います。

文章書くのがもともと好きだったので、文章を書いて伝えていこうかなと思っていました。
noteを頑張ろうと思ったのもこの頃で、「これからは動画、YouTubeだよ、長い文章なんて誰も読まない」と尊敬する方から言われたので、逆になにくそと思いnoteを更新し始めました。
12月の寒い中、2日に1回位のペースでnoteを書いてましたね。
そして、年が明けてから初めて反響があったのがSOGUさんのブックストッパーの記事。

初めてバズった記事はこれです。
これまで100くらいのいいねがつく記事はあったのですが、1000を超えるいいねがつくという経験を初めてしました。
メーカーさんの在庫を完売させるぐらい売ることができて、「あ、意外とネットも買ってもらえる!」という自信に繋がりました。

ー 意外でした。この記事より前からnoteで話題になっていたイメージがありましたが。

少しずつですね。
note内では少し取り上げていただいていたかもしれませんが、noteの中で話題になってもなかなか実際に商品は売れません。
その頃は特に小売店ではまだnoteやっているところは少なかったですね。
メーカーさんがどうやって作ったのかみたいなことを発信するというほうが多かったと思います。
でも、誰もやっていなかったからこそ自由に記事を書けて、やりやすかったところもあります。

ー ちょうどそのタイミングくらいでコロナが来ました。

ブックストッパーの記事をきっかけにお店が認知されてようやくネットストアが稼働していきました。
ちょうどそのころ、noteが「小さな商店街になる」みたいなことを言い始めた頃で、noteで中心となって動いておられた最所あさみさんの運営するコミュニティに参加させていただいた個をきっかけにトークイベントなどでも取り組みをお話させていただく機会もちらほらと増えてきました。

一緒にトークイベントやらせてもらったきっかけになった記事がこれですね。当時の取り組みとして考えていたことをまとめたという記事ですが。

ー これは僕も見ました。オンライントークイベントも聞いていました。
コロナになって、小売店がオンラインに切り替えないといけないというタイミングだったのですごい参考になりましたし、実際に小売店の方にも紹介しました。

自分がやってることを秘密でやるのではなく、会社員で働いていたためか共有するということをやりたかったんです。
知り合いのデザイナーさんは、「山下さんのお店は実験と結果の公表を繰り返しているね」って言われましたね。
その言葉は確かにうちのお店の強みになるのかもなって思いました。

元々、実店舗やろうと思ったのも「小売再生――リアル店舗はメディアになる」という本を読んだ影響も強くあります。

ちなみに本には「実店舗をメディア化する」ための色々な実践例が書かれているのですが、うちの場合はちょっとずれています。
「この時代に実店舗どうやるのか」って言う試み自体がメディアになっている。

そして気づけば小さな店を、この時代にどうやって運営するのかっていうところの発信にも注目が集まってきたことで、お店の認知が深まって商品もついでに見てもらえる……という不思議なサイクルが回り始めたようにも思います。

ー みんなどういう風にネットストアをやればいいのか。小さな小売店向けの記事とか成功事例みたいなのがなかったから、注目が集まったのも納得です。

特徴でもあるスピード感のある発信

ー 山下さんの特徴といえば、記事を書くスピード。ほんと早いですよね。

もうルーティン感覚で書けるようになりましたね。
自分の中で型みたいなのはできてきました。
後は無印良品に勤めていた時、会議の議事録を要点だけまとめて店長に配っていました。それが結構好評で、その経験からゆっくり完璧にまとめるより、「つたなくても早く」が大切と気づきました。

ー なるほどそれが活きてnoteを書くときの要点の整理につながっているんですね。

それもあります。
あとは会社に対する改善提案ずっとしていました。
お店から本部に対して改善案を提案するというシステムがあります。
その質や数で表彰されるんですが確か4期連続くらいで表彰されました。
半期で100件ぐらい提案したこともあります。

ー それはすごいです。それくらいやっていると社内では有名だったのでは?

またあいつかって感じで認知はされていました笑
一緒に働くスタッフやアルバイトの子から聞いた「愚痴」を、本部の人にもわかりやすい言葉に変換して提案にする。
そんなことを繰り返していたことも今につながっている気がします。

無印良品でアプリが出たときも、どうお客様に説明していいか。自分なりに要約して提案しました。まだその時代まだガラケーのスタッフもいたので、アプリってなに?から説明しないといけませんでした。

できるだけ図式化して、始まった当日ネットで画面をスクショして、パワーポイントにまとめて、こうやったらスタッフわかりますよって言う説明方法までを提案しました。

ちなみに先日。自分は不器用だという話を知り合いにしたところ、「山下さんは不器用ではなく、確認してから動きたいんでしょうね」と言われました。
言われて気づいたことなんですが、ルールを守るにも、変えるにもルールの生まれた理由を把握したくなる性格なんだと思います。
その面倒な性格が活きる道を探していたら、今に繋がったという感触があります。


ー それが今の発信の型となり土台になっているということですね。

新しい商品づくりも改善提案に近いです。
プライスのフォントが変更できない。
使い古しの段ボールをもう一回使うときにリユースのシールを貼ると納得するのではないか。
ハードカバーのノートもなんでページが多く分厚いものしかないのか。
それなら、ハードカバーだけを作ったらいいのでは?……とか。
その辺は改善提案からきています。

ー これもう少しあったらいいのになに気づく力と積み上げが商品になっているのですね。

オリジナル商品の制作も、売場という出口を自分でもっているので、比較的ハードルが低いのではないかと考えています。

また、下請けだったメーカーさんが立ち上げたオリジナルブランドの商品を見つけてきては、直接ご連絡してお取り扱いさせていただいていることもあって、お取り引きをしていることで生まれた関係性からモノづくりにスムーズに移ることができているのも、お店をしているうちならではの強みなのかなと思っています。

あとクラウドファンディングで120万円と言う結果が出せたのも、メーカーさんと「作っても売れないんじゃないか」という不安を解消するコミュニケーションツールになっていることも重要に思います。
noteのアクセス数もそうですね。実績があるからこそメーカーさんにもお話を持っていきやすいです。

クラウドファンディングは一昔前まで、商品を作ろうにもお金がないから作れない!という人がやるイメージがありましたが、いまではクラウドファンディングをしなくてもオリジナル商品を作ることは難しくなくなりました。
でも宣伝効果と「どれぐらいの需要があるのかの確認」のためにクラウドファンディングを活用しています。

大日本市との出会い

ー 大日本市との出会いは、「#カタリベ大日本市」でしたね。

ありがとうございます。あの時はお世話になりました。ちょうど次どうしようかなと悩んでいたタイミングだったのですごくいいきっかけになりました。

ちょうどその展示会で「THE DAY PACK」を見つけました。この時思ったのが、「実はこの商品の良さに、多くの人は気づいていないのではないか?」ということです。

ー 見つけて頂いたときは、もう新作ではなく、発売から1年くらいたっていましたがなぜTHE DAY PACKにビビっときましたか?

THE DAY PACKに関してはメーカーさんも細かく機能性を伝えてなさそうだなと感じて、それがチャンスだと思えました。
オフィシャルサイトはもちろん構造をイラストにしたり、かっこいい写真が並んでいますが、もっとわかりやすく噛み砕いて伝えることがたくさんあるかなと。

そこから構造であったり、細かいポイント、自分が使ってみて思ったことなどをまとめて記事にしました。

ー かなり初速もよかったし、僕たちもびっくりしました。こんなに記事を通して売れるのかと。

そうですね。最初もよかったですし、いまやTHE DAY PACKはドケットストアのサイトの中でもかなり上位のアクセス数を集めるアイテムになっています。
Twitterでも、デザイナーであり「THE」というブランドの生みの親でもある水野学さんにもnoteの記事に反応していただきました。

ー 山下さんの記事をきっかけに僕たちももっと伝えないといけない情報はたまだまだたくさんあるなと思って変わっていきました。THEもnoteを始めたり情報の伝え方がどんどんこれをきっかけに変わっていったと思います。

店頭でも販売しています

WEBサイトでの信頼は実店舗から

ーコロナ禍になりお店にはどのような影響がありましたか?

しんどいこともたくさんありました。
でもチャンスにしていかないといけないと思いました。
たとえばデスクマット。リモートワークが当たり前になる前までは全く売れていなかった。
そもそもそれまで、自宅で働く人はそんなにいなかったので、必要なかったんでしょうね。

「家では仕事しないからなー」で売れていなかった商品が、リモートワークになってそのタイミングでツイッターで仕掛けたら2か月で200本売れました。
どう自分の仕事環境をよくするのかが見直されたのは、コロナの影響の一つだと思います。

そしてコロナ禍の初期には、大手の文具雑貨を扱う店舗が軒並みお店を占めた時期がありましたよね。
でも、大手が閉店してしまっている中、逆に個人のお店で元々陸の孤島だったうちのお店は、感染の危険も少なく働けました。
そんな時にSNSを通じていろいろと発信を重ねていきました。

あと印象的だったのは、大手文具雑貨店が開いてないから、スケジュールが買えない。という声があったこと。

これまで出勤すれば、なんだかんだ会社が管理してくれていたスケジュールもすべて自分で行わないといけなくなった。
でもいつも買っているお店に見に行こうにも見に行けない。
そんな話を耳にして、知り合いのメーカーさんからスケジュール帳を委託でお預かりして詳しく紹介するnoteを書いたりしました。

ーすぐにGoogleカレンダーのようなアプリに対応できない人も多かったと思いますし、こういった需要は絶対ありましたよね。それにきちんと対応できたのは元々取り扱っていたし、SNSでコミュニケーションをすることを可能にしていたからですね。

需要の周りには想定外に情報を欲しがっている人がたくさんいらっしゃったのも新しい気づきでした。
デスクマットや新しい手帳で気分を変えたいと思っていたから、noteを読めて助かったという声もいただけてとても嬉しかったです。

あとはAmazonとかでも、スケジュール帳やデスクマットは売っていると思うんですが、「これは誰が販売しているのか?ちゃんとした正規品なのか?」ということを気にしている人も増えたように思います。
どれが本物の情報なのかもわからない。

それならちゃんとした実店舗があるところでスムーズに購入したい。
実はネットストアがあればなんでもできると言われていたけど、今の時代は一巡して実店舗があるからこそコミュニケーションが成り立っているとおもいます。

WEBであっても結局はお互いの信頼の上で成り立っているんですよね。
なので自分が本当にいいなと思ったもの以外は販売してはいけないなとも強く思います。

ー同じものでもアプローチの仕方で全然違うと感じています。

小さな実験を積み重ねる先にあるもの

ネットだけでなく昨年は東京で「偏愛文具展」のようなポップアップイベントも実施しました。

ー 私も行かせていただきましたが、物販もトークイベントも大反響でしたね。POPUPイベントは何でやろうと思ったのですか?

ネットストア買ってくださっている方の半分以上が関東の方なんです。
コロナ禍ということもあり全然関東の方とコミュニケーションがとれていなかったので、東京でやったらその人たちは来てくれるのだろうか?という実験でもありましたね。

ー なぜまた「シーナと一平」という場所を選ばれたのですか?

元々会場の運営の人が知り合いだったというのもありますが、ちょうど物販をやったことないからやってみたいとおっしゃっていたので、やってみよう!と思い切ってチャレンジしました。

ー そんな中トークイベントは満席、3日間でなんと200人ものドケットストアファンが訪れるという大盛況ぶりとなりました。

ー 山下さんは常に「小さい実験を積み重ねる」ことをやられていますね。

そうですね、それはほんとにどっち転んでも死なない程度で。笑

ー そこからPREDUCTS代表の安藤さんにも繋がっていく。

そうなんですよね。オリジナル商品であるケーブル保護チューブを安藤さんのデスクブランドでお取り扱いいただいたり、

安藤さんも偏愛文具展に来場されて実際にモノを買われたり。

そこから安藤さんと意気投合し、何と一緒にイベントもさせて頂きました。

ー これまではオンライン上だったつながりを、直接お話をできる場所を設けどんどん進化させて行っているイメージです。

今後は、たくさんの関係を持てるように移動販売車もつくっているところです。日本全国を回る旅する文具店ができたら楽しいなと思っています。

まさしくカタリベがいる店として、これからは全国の皆様にドケットストアをお届けされるべくまた小さな実験を繰り返す山下さん。ぜひWEBサイトやnoteだけでなく、ぜひ直接会いに行ってみてください。

ドケットストアWEBサイト


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