見出し画像

「僕たちは”道具の翻訳家”なんです」自分のための料理道具が見つかる、飯田屋の魅力とは【いいカタリベがいるお店紹介】

世界最大級の飲食店用問屋街「かっぱ橋道具街」。そこにマニアックで専門的な道具がぎっしりと並んだ”超”料理道具専門店「飯田屋」があります。そこで店主を務めるのが、6代目の飯田 結太さん。さまざまな料理道具を使い比べて、語り尽くしてきたまさに道具のプロ。

前回の記事では実際に道具を使用して頂き、道具専門店ならではの目線で語って頂きました。今回は、たくさんの道具店が軒を連ねる中、なぜ飯田屋はたくさんの人に支持され愛され続けるのか。その理由について迫りました。

■前回の記事はこちら

画像1

飯田結太/飯田屋6代目店主
"超"料理道具専門店飯田屋6代目店主。料理道具ヲタクとして世界中の料理道具を研究。「マツコの知らない世界」「タモリ倶楽部」など様々な番組で料理道具の奥深い世界を面白おかしく発信。自身が仕入れを行う道具は必ず前もって使ってみるという絶対的なポリシーを持ち、日々世界中の料理人を喜ばせるために活動している。
「人生が変わる料理道具」監修
「かっぱ橋商店街リアル店舗の奇蹟」著者

人気の秘訣は「CDM(ちょっと・ダサい・店)」!?

ーかっぱ橋商店街を実際に歩いた人は気付くと思うんですけど、飯田屋だけがちょっと雰囲気が違いますよね。お客さんがみんな吸い込まれていく感じがあって......。お店作りで意識していることはありますか?

ありますね。ちょっとダサイんですよ(笑)。
CDM、ちょっと・ダサイ・店、です。

画像2

実はこれ、飲食店のキーワードなんですよ。ちょっとダサイ店の方がかしこまらなくていいので、お客さんが入る確率が高いんです。

飯田屋は家庭の方が料理を楽しんでもらうための店でもあり、プロの料理人がもっと調理を楽しんでもらうための店。エンタメの店なんでちょっとださくて全然いいんですよ。

かっぱ橋というのは元々プロショップの街。その中で飯田屋はご家庭の方でも気軽にふらっと来てもらえるような店なので、だからこそ今の空気感につながっているのかなと思いますね。

ーたくさんの道具あるのに探しやすいと感じましたが、展示方法の工夫はありますか?

すべての棚にテーマがあるんです。

例えば、おろし金のテーマを持った棚にはおろし金だけが250種類ぐらいあって、ほかにもピーラーの棚やバター用品の棚など、カテゴリーに分けて展示してます。そしてそれぞれが過剰在庫レベルで種類がある。それがうち店の特徴ですね。

あ、あとは道幅がすっごい狭いです!

画像3

ー「ヴィレッジヴァンガード」を彷彿とさせますよね......!

たぶんもっと狭いですね。コロナ禍では最悪ですよね、ド密です(笑)。<※編集部注:感染予防対策は実施しています>

実はこれ、ベンチマークしたのが駄菓子屋なんですよ。駄菓子屋の道幅は成人男性が腕が伸ばさなくても商品に手が届く設計。なにか気になった商品があれば移動しなくてもすぐに手に取れる道幅に設定したかったんです。そして道幅を狭くすればするほど、購買単価じゃなくて購買点数が増えたんです。

飯田屋にわざわざ来てくれる人って、「自分に合った”何か”が欲しい人」なんですよね。なんでもよかったらネットでいいはず。でもそんなことなくて、自分に合ったものを買いたい。でも情報が多すぎて選べないんですよね。

だから、自分のためにレコメンドしてくれる店・人っていうのが求められるんです。なので大きなモール系のWEBサイトも全然強くないです。

すべてはお客様に合った商品を選ぶために。「ノルマ禁止」「売り上げ目標なし」のルール

ー戦略的にお店づくりをされている飯田屋さんですが、接客面で意識されていることはありますか?

飯田屋では「声掛け禁止」なんですよ。「いらっしゃいませ」「こんにちは」以外に声はかけないんです。普通の店からすると違和感あると思うんですけど、お客さんから声をかけられてから出ていくというルールにしています。

あと売り上げノルマも、目標もないです。どうしてその仕組みにしたかと言うと、ノルマがあると数字にとらわれてしまうんです。あと10,000円ノルマが足りなかったらその分の商品を売りたくなるじゃないですか。でもそれは曇りガラスのようなもので、それを取っ払って目の前の人にとってベストな商品を見つけてあげて欲しいという思いがあるんです。

そのお客様の「喜ばせの蓄積」が会社を存続させる道だと僕は思ってるんです。

そして僕たちは「”すべての人”が喜ぶ商品は1個もない」と言う大前提を持っていて。ただ、その目の前の人が喜ぶ道具は必ず世の中にある。だからその人がどんな家族構成なのか、どんなシーンで使うのかどんな量を使うのかって言うのを事細かに聞きたいです。それに合わせて道具提案していく。

僕たちは売り手って呼ばれてるんですけど、僕は「つなぎ手」だと思っていて。道具とお客様をつなげる、つなぎ手。スタッフにもそのことは伝えてますね。

飯田屋のお店づくりの秘密は「朝礼」と「終礼」にあった

料理道具を求めて飯田屋に訪れ、接客を受けると、その丁寧さ・真摯さに気づきます。

画像4

たとえば「キッチンのボウルが欲しいんですけど......」と相談する。すると、使用用途や収納スペースはもちろん、家族構成、何人分のものをつくるか、泡だてはしますか?ハンバーグはこねますか?と数々の質問を投げかけてくれます。

そして、その悩みを受け取った飯田さんはお店にある様々なボウルを手に取り、素材の違いや形の違いひとつひとつ丁寧に説明をしてくれます。「道具は絶対に持ったほうがいいんですよ」と言われ、手に取りながら悩む時間は楽しく、まさに自分のための道具探しという言葉がしっくりくるようでした。

そしてこの丁寧で熱い接客は、店主の飯田さんのみならず、スタッフの皆さん全員ができるというのです! なかには、雑誌やTV番組をみて「○○さんに接客いただきたいんです」と指名がくることもあるそう。

そんな魅力的な店づくりができるのは、なぜなのか? その秘密を探るべく、営業終わりの飯田屋へ。そこで聞いた「終礼」に秘密がありました。

閉店後、飯田屋のレジ前にスタッフ全員が集まります。

画像5

飯田さんの「皆さん今日も1日おつかれさまでございました。今日の振り返りからいきましょう。」の声ではじまり、スタッフの皆さんひとりひとりがその日の出来事を言葉にしていきます。

今日は女性の若いお客さんが多かったこと、同期のスタッフとの連携がスムーズにいったこと、最近POPを描くのがとても楽しいこと......。

自分の感情やお客さんに対してはもちろん、一緒に働くスタッフや「飯田屋」に向き合うからこそ出てくる言葉の数々は、どれもポジティブなもの。そしてたった1日の出来事にも、様々なストーリーと接客の秘密が隠されていました。女性スタッフの田代さんが話しはじめます。

画像6

田代さん:
「今日は電話で「これから行くので田代さんに接客お願いしたいです」という連絡がありました。ご年配の方で『人生が変わる料理道具 (エイ出版・飯田結太 著)』にたくさん付箋貼ってくださってました。

話を聞くと、手が握力が弱ってきてみじん切りが大変みたいで、玉ねぎのスライスができるものを探していたので「ブンブンチョッパー(K&A)」を提案しました。

でも問題があって、実際にやってみたいって言うことで、箱を開けて使ってみたところ、カチッ!と音が鳴るフタを開けることができなかったんです。

これは買って帰られても厳しいかなぁ、こっちの方が安心して使えるんじゃないかな?と思って、フタを乗せて押さえるだけで使える「ビュン! ビュン! チョッパー(河西)」の方をご案内しました。

画像7

そしたらその方、使い方もひとつづつメモをとって、最後には「楽しんで買い物できて、よかった」って言ってもらえて......。飯田屋は心配事もなくして帰ることができるお店。説明を受けたり、実際試すことによって楽しんだりしていただけるのでよかったなぁと思いました。」

笑顔で語る田代さん。そしてその言葉に真剣に耳を傾けるスタッフの皆さん。エピソードを交えた接客での気づきを、毎日の終礼で共有しているという事実。学びがあり、お客さんを喜ばせるための知識が積もっていく。この時間が飯田屋のすばらしい接客に結びついているのだとしみじみ感じることができる出来事です。

そして終礼はまだまだ続きがあります。「ではヒントノートに進みます」と飯田さん。

画像8

「ヒントノート」

ノートを広げた飯田さん、呪文のように綴られたものを読み上げていきます。「円錐型のナツメグおろし」「60代男性の方、ステンレス製のトレーの滑り止めシート14インチ用」......。

これはすべてお客さんからいただいた要望だと言います。どこを探しても見つからず、飯田屋にはあるはずとお客さんが問い合わせてきたものが綴られた、貴重なリスト。飯田屋では2回問い合わせがあった商品については仕入れる、という仕組みをとっているようです。

画像9

終礼が終わるにむかい気づいたのが、スタッフのみなさんの「ありがとう」の言葉。今日あった出来事や触れ合った人たちに感謝の気持ちを忘れない。そのあたたかさが、飯田屋の空気感をつくり出すのだと気付かされる時間です。

「つくり手」が一番のカタリベ、飯田屋は伝え手であり道具の翻訳家だ

ー飯田さんに最後の質問です。これからのものづくりの世界に期待する事はありますか?

使い捨てにならない道具が増えるといいですね。このマインドをみんなで持ってもらいたくて、例えばお母さんから譲り受けた道具とか、結婚記念で買ってもらった道具を「リペアしたい」って言う方が結構多いんですよ。新しいものを買うのとおんなじぐらいのの値段を出してでも直したいという熱量の方もいるので......。

画像10

あと、道具のつくり手さんにもたくさんストーリーや意図を語ってほしいなと。

「いいものだから売れる」と言う時代は終わっていて、物が良くてもちゃんと表現できなかったら、誰にも刺さらなくて売れないですよね。

1番のカタリベって、つくっている方だと思うんです。ちゃんと思いを言葉にして教えてくれる努力、それはつくり手もそうだし、売り手も使い手も。そういった情報があるだけで、僕たちは道具屋はもっと思いを込めて表現ができるし、使う人ももっと道具を大事にできると思うんですよね。

***

「道具は言葉を発しないからこそ、僕たち”道具の翻訳家”がいるんです。」と飯田さんは語ります。つくり手も道具の伝え手としての側面を持つことで、もっと道具が広がり、愛される。道具のプロが望むものづくりの世界が実現するといいな、と私たちも取材を通して感じました。

展示会とトークイベントのお知らせ

最後に展示会場では飯田屋さんがレビューした道具も手にとることができます。バイヤー様ぜひ直接触れて頂き飯田さんのレビューと共にバイイングの参考にしてください。

6月23日には展示会場でで飯田様にトークイベントにご登壇頂きます!飯田屋ののリアルな運営方法や提案方法が聴けます。ご来場いただけるキッチンツール関係のバイヤー様、小売店経営者の方は学びになるのでぜひご参加ください。

予約リンクはこちら
https://dainipponichi20210623event.peatix.com/

取材協力 / macco

Twitterでも情報を発信しておりますのでフォローお願いします