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「日本の足元を支える」奈良のものづくりから、未来を考える。

奈良というと、何を思い浮かべますか?
鹿?大仏?奈良漬?
いいえ、奈良といえば「履物(はきもの)」です。

何を隠そう、奈良は履物の一大産地。
昭和を代表するご近所履きから、立派な革靴、そして靴下工場が集結する街まで、いたるところで人の足に関わるものづくりが日夜行われています。

今日は、日本で暮らす皆さんに知っていただきたい、日本の足元を支える「奈良の履物」をご紹介。大人の工場見学をする気分で、ぜひお読みください。

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■ものづくりは、変わり続けること「HEP」

奈良駅から車で1時間。降り立ったのは、御所市。
この地をスタートに、今日は奈良の履物工場見学に出かけます。
ともにするのは、ALLYOURS 木村さんnoteプロデューサー最所さん

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ずらりと並んだ、製造途中のサンダルたち!
実はヘップサンダルと呼ばれ、映画「ローマの休日」でオードリー・ヘップバーンが履いていたことにその名が由来する、つっかけ式のサンダルです。

そういえば実家の祖母も毎日履いていて、私も帰省の度に拝借しているのですが、玄関先にこの昭和感あるデザインが常駐しているのが、ちょっと気がかりでした。
でも「つっかけ」だから、突っかけたいわけで。下駄箱にしまい込んでおくのは、本質的ではありません。

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そんな折、誕生したのがヘップサンダルブランド「HEP」。
玄関どころか、もはやファッションアイテムにしたいデザイン!
しかもふかふかしたクッション性が最高で、履いていて気持ちいい。
こういうの求めてました。

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9割の工場に断られた、ブランドスタート
このヘップサンダルをはじめとする国産のゴムサンダルの多くが奈良製。
一方で最盛期の1990時代からほとんど進化をせず、中国製にとって代わられ、価格は1000円で投売りされ、いまやつくり手の多くが廃業の道をたどっています。

だから「HEP」をつくろうとした2019年、9割の工場に断られたと、HEP生みの親・川東履物商店の川東さんは言います。
「ようやくサンプルづくりからお付き合いが始まったのが、マルサンフットウェアーの西邨さんでした。」

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(川東さんの奥で、少し控え目にお話ししてくれる西邨さん)

多くのヘップサンダル工場は、新しいことをやりたがらない。
今までのつくり方が通用しないし、失敗したときのリスクや余計な苦労を負いたくないから。
それに販路や流通など、届け方だってわからない。

でも西邨さんは、”新しいことを面白がれる”人でした。
どうして川東さんのお仕事を受けようと思ったのでしょうか。

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「川東くんの真っ直ぐさや真面目さに、惹かれたから。」
控え目な口調で話してくれた西邨さんは、それまで工場見学やメール受注、もちろんECサイトもやっていない、クラシックな町工場。
ヘップサンダルを現代の生活に合うようにアップデートしたい。そんな川東さんの熱意に呼応するように、サンプルの開発段階から、その後の素材の改良やつくり方の提案まで一緒に考え抜き、HEPは誕生しました。

HEPが変えた、ヘップ親父
「無理なことは聞いてあげる、無茶なことは断る(笑)。」
そう静かに笑う西邨さんは、川東さんの影響を受け、今ではECサイトを立ち上げ、noteやTwitter、Instagram、クラブハウスも始め、新たにLINE公式アカウントもスタート。いつか工場見学もオープンにしたい、目を輝かせながら話してくれる西邨さんのnote「ヘップ親父の独り言」、必見です。

ものづくりとは、変わり続ける姿勢なのかもしれない。

無茶とは、当人にとって不可能なこと。
無理とは、当人にとって不可能ではないこと。

”無理してでも一緒にヘップサンダルを変えていきたい。”
また一歩、奈良を歩く足取りが軽くなる気がしました。

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■千差万別、靴下の世界「SOUKI」

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みなさん、靴下ってどれくらいこだわって買っていますか?
「3足1000円で買って、とりあえず足を覆えればいい。」
あるいは、
「おしゃれな靴に映える、おしゃれなデザインだったらOK。」
そんな人も多いのではないでしょうか。かくいう私も、数年前まで後者派でした。

実は、奈良は靴下づくり全国No.1。
ソックスに限ればなんと63%のシェアなんです。
もっというと、全国で年間約6億足生産されるうち約2.4億足が、奈良のとある町でつくられています。

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それが次の訪問先、広陵町(こうりょうちょう)。
大仏が鎮座する奈良市から、車で30分ほどの距離。
この広陵町で1927年に創業した靴下メーカー「SOUKI」へやってきました。

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さて、靴下はどうやってつくられるのか。
3足1000円の光景を見ると、機械で工業的に大量生産されている、そんなイメージを抱きがち。
でもその現場を覗いてみると、驚くほど人の手が関わっていました。

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靴下は、実は編み物。
まず筒状に編み立て、脚のすねの部分からかかと、つま先まで一気に形をつくっていく。これが何足にも連なり、まるでガーランドのような靴下が生まれます。かわいい。(製法によっては一足ずつ切り離されてることも)
生まれたての靴下は、筒状なのでつま先が開きっぱなし。
それを一足一足、人の手で縫い合わせいき、ようやく靴下の形が出来上がります。

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(このあとも形を整えたり検針したり装飾を施す工程があるのですが、)
この編み立ての工程がいかに職人技か、体験できるワークショップがSOUKIさんにあるのです。
本物のくつ下の編機を使い、それを動かす動力はなんと自転車!

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片足編み立てるのに、ギア4くらいの重さのペダルを、大人の力で5分ほど自転車をこぎ続ける必要があります。

編むスピードが不均一だと、仕上がりもバラバラに。
体験した私たちも興奮して、「頭が見えてきました!」「あともう少しですよお母さん!」「おめでとうございます、無事生まれました!」
大の大人が湧きたつほど、たった片足できあがることがこんなにも愛おしいとは。

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奥が深い、靴下づくり
つくりたい靴下によって、編み立てる機械は変わります。
糸が太いほどゆっくり編み立てる。古くからの機械を直し直し使ったりもする。
フィット感を出すために新たな設計図をつくる。質を求めると、少量しかつくれない。
どれもボタンをポチッ通したら自動的に靴下が出来上がるわけなどなく、時間をかけ、人の手をかけ、想いをかけながらつくっていく。

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改めて感じる、靴下がファッションの中で軽視されがちなこと。
これは、安く売ってきた売り手と、安さを求めた私たち消費者、履き心地ではなく値段や見た目ばかりを選んできてしまったことの積み重ねなんだと思います。

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SOUKI代表の出張さんは、「本当に自分たちが履いていたいものを届けたい。」そんな想いのもと価格競争の世界から抜け、自社ブランドをつくり、あの自転車編み立てマシーンを生み出し、日々靴下の魅力を届けています。
「うちの工場で活躍するヴィンテージマシーンが、こうしてカシャンカシャンと音を立てて編み立てている様子を、もっとたくさんの人に見てほしい。広陵町が靴下の街であることをもっと知ってほしい。早くここをオープンファクトリーにしたいんです。」

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そういえばSOUKIで働くスタッフは、皆さんお若い。靴下マイスターの資格をもつ30代女性もいて、皆、靴下愛を熱量高く語ってくれて気持ちよかった。
私が追いついてないだけで、靴下業界はもっとポジティブなのかもしれません。

もっとも靴下は、Tシャツよりも、ジーンズよりも、何よりも肌に密着し、歩く行為を支えてくれる存在。
”靴下に足を向けて眠れない”
そんな風に、靴下の価値を見直させてくれる、SOUKIさんのものづくりと姿勢でした。

■クラフトビールならぬ、クラフトスニーカー「TOUN」

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箱を開けたときの、スモーキーな革の香り。
足を入れたときの、体を包む柔らかさ。
歩き出したときの、足取りの軽さ。
スウェードのスニーカー「TOUN」が届いたときの感動を、いまでも覚えています。

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工場見学の最終地は、このTOUNを製造する「オリエンタルシューズ」さん。創業70年、ローファーやビジネスシューズをメインとした革靴専門メーカーです。総勢50名の社員を抱える、今回巡った3社の中で一番大きな会社。
合皮やキャンバス地ではなく、牛革スウェード製のスニーカーが果たしてどんな風につくられるのか、早速覗いてみましょう!

素材選び・裁断
「革靴は、天然もの。
だからものづくりも、素材を選り抜くことからはじまります。」

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そう話してくれたのは、TOUNブランドマネージャーの松本さん。
高級であるほどシワやムラがない、一番美しい部位だけを選んで使う必要があるのですが、TOUNが目指したのは、持続可能なものづくり。

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表情にムラが出やすい革の表地(つるつるした面)ではなく、限られた生地を余すことなく使える裏地を採用しています。これがつまり、スウェード生地。起毛した肌触りのよさやデザイン的な魅力だけでなく、毛足の細かい部分から粗い部分まで表情として活かせることが、スウェードを選んだ理由でした。

製甲(せいこう)
各パーツに裁断した次は、靴の顔ともいえるアッパー(甲を覆う部分)をつくります。
これ、全部手作業。業務ミシンでパーツを一つひとつ繋ぎ合わせていきます。

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吊り込み
アッパーを縫製しただけでは、てろてろでまだ平面的な状態。履くことはできません。
このアッパーを木型(靴型)に沿わせ、立体的な靴のかたちにしていきます。

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おお!大きな機械が登場しました!
(まるで、コックピットに乗り込むパイロットみたい)

靴の表情を見ながら、センターを決めて機械にセット、木型に沿うように革を伸ばして整形していきます。ここで靴のフェイスが決まる、大一番。機械を使うとはいっても、人の感覚が左右するのです。

つま先を付けたら、次は中間とかかと。中間は人の手で。

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接着剤を塗り、しわがないよう革を伸ばし、器具で叩いて密着させます。これで足を包む靴の形になりました。

底付け
靴のアッパー部分は完成したので、ソールをつけていきます。
まずは下準備。糊が付きやすいよう、底面にやすりで傷をつけます。

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次にアッパー側とソール側に糊を塗り、機械で圧着。
大型の圧着機に靴が投入されます。まるでお風呂につかっているみたい。かわいい。

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お風呂上りの靴たち。
ようやくこれで完成でしょうか・・・?

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いいえ、最後の仕上げが残っていました。
アッパーと底をより強固にするために、人の手でステッチしていきます。入浴後のお肌を整えるイメージです。

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平面の布をミシン掛けするだけでも難易度高いのに、靴は立体!
これを恐ろしいスピードでどんどん仕上げていきます。体感的には片足1分くらいでしょうか。

ようやく、TOUNが誕生しました。

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それぞれの工程が細かく分かれ、そのすべてに人の手を介しています。まるで一つの生き物を大切に育てあげるように。

私は最初の言葉を思い出していました。
「革靴は、天然もの。」
そうか。
自然のものだからこそ、その揺らぎを整え、両足あわせて気持ちよく履けるように人の手で整えるのか。そうして使い手の元でさらに育て上げていくんだ。

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TOUNをはじめこうして丁寧に生み出される革靴は、奈良が一大産地。
かつて日本でつくられる約25%の革靴が、奈良産でした。
でも、いまローファーやビジネスシューズといったクラシカルな革靴を履く機会がどれほどあるでしょうか。最近はスニーカーがビジネスシーンでも受け入れられたり、リモートワークになったり、昔ほど革靴を履かなくても暮らしていける時代。

オリエンタルシューズさんがTOUNをつくったのも、こうした状況への危機感からでした。
カジュアルなスニーカーを通じ、人の手を介して丁寧につくられた革靴に触れてほしい。
履くたびに柔らかく自分の足に馴染んでゆく、育てる靴の楽しさを知ってほしい。

履けばきっと虜になる、革靴のスニーカー「TOUN」の工場見学でした。

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■奈良の履物工場見学から見えた、日本のものづくり

三者三様のものづくりでしたが、共通したのは「変わり続けている」こと。レガシーを守り、活かしながら、いまの暮らしの中にどう寄り添えるか考え、つくり変えています。

でもそれは、つくる側の話です。
つくっても伝わらなければ、使われなければ、未来へ繋いでいくことはできない。
「奈良はヘップサンダル・靴下・革靴の生産量日本一なんだよ」とか「●●県では●●が名産なんだよ」そんな誇りを受け継げないのです。

私たち使う側は、何をすべきか。
それは、知ること、触れること、使うこと。
それが、日本の工芸を未来に残していく大切な「一歩」だと思うのです。

ちなみに、中川政七商店の「大日本市」は、このつくる側と使う側を繋ぐ存在です。
日本各地に点在するものづくりを伝え、繋ぎ、届けるため、合同展示会や問屋事業を続けています。一見遠回りのように見えるけれど、「日本の工芸を元気にする!」ために欠くことのできない事業だと考えています。
だからこれからも100年先の工芸大国日本を目指し、一つでも多くのものづくりをお届けしていきたい。そんな想いでこのnoteも続けています。

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もしかしたら。
今日あなたが履くその一足は、未来へ続く大切な一歩かもしれない。
そう想像すると、ものづくりがもっと身近に感じませんか?

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とっても長くなってしまいましたが、奈良の履物を通じて、日本のものづくりに少しでもご興味もっていただけたら幸いです。(HEP、SOUKI、TOUNもぜひお手に取ってみてください!)


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